炎症性腸疾患
腸に炎症が起こった状態の総称を、炎症性腸疾患といいます。腸に炎症が起こると、痛みや腫れ、発熱などの症状が起こります。炎症性腸疾患には、明確な原因で起こる特異性腸炎と、原因が不明な非特異性腸炎に分けられます。
炎症性腸疾患の原因
特異性腸炎
細菌やウイルス感染、急性出血性大腸炎、全身性疾患、血液循環悪化、放射線照射などが原因で起こります。
非特異性腸炎
原因不明の腸疾患で、潰瘍性大腸炎、クローン病、ベーチェット病、単純性潰瘍などが挙げられます。
潰瘍性大腸炎・クローン病で
お悩みの方へ
潰瘍性大腸炎・クローン病は、胃腸科の病気の中でも比較的まれな病気と考えられておりますが、近年その数は増加してきております。
原因不明で、その診断・治療は多くの経験を積んだ医師でないと困難です。
当院では、肛門科と胃腸科の診療技術をあわせて、より正確かつ迅速な診断・治療が可能です。
当院の治療実績
当院では、肛門科と胃腸科の診療技術をあわせて、より正確かつ迅速な診断・治療が可能です。
開院より現在まで、250名の潰瘍性大腸炎患者様、25名のクローン病患者様の診療実績があります。(令和6年6月現在)
以下のような症状をお持ちの方は、当院にてご相談ください
- 腹痛・下痢が続いている方
- 薬を飲んでも改善しない方
- 血便がある方
- 粘液が出る方
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは、下痢・血便・腹痛などを伴う原因不明の炎症性疾患です。
何週間も続く下痢・腹痛、さらに粘液・血便などを伴う場合、潰瘍性大腸炎の疑いがあります。
潰瘍性大腸炎の症状
潰瘍性大腸炎を発症すると、以下のような症状が現れます。
- 繰り返す下痢
- 腹痛
- 血便
- 粘液便
- 発熱
など
潰瘍性大腸炎の特徴
年齢比による発症リスク
発症年齢
若年者から高齢者まで発症
ピーク
男性:20~24歳 女性:25~29歳
男女比
男女比は1:1
喫煙
喫煙をする人はしない人と比べて発病しにくい
発症の原因
遺伝的因子が関与していると
考えられます
潰瘍性大腸炎は家族内での発症も認められており、何らかの遺伝的因子が関与していると考えられています。近年、世界中の研究者によりこの病気の原因を含めた特異的な遺伝子の探索が続けられていますが、現時点では遺伝に関する明解な回答は得られていません。
遺伝的要因と食生活などの環境要因などが複雑に絡み合って発病するものと考えられています。
治療
継続的な内科治療が必要です
治療を行った場合、多くの患者様は症状の改善や消失(寛解)が認められますが、再燃する場合も多く、寛解を維持するために継続的な内科治療が必要となります。あらゆる内科治療を行っても寛解とならずに手術が必要となる患者様もいます。
また、発病して7〜8年すると大腸癌を合併する患者様が出てきますので、そのような患者様は、症状がなくても定期的な内視鏡検査が必要となります。しかし、実際に、一生の内に大腸癌を合併する患者様はごく一部です。
クローン病
クローン病とは、主に若年者に多くみられる、下痢・血便・腹痛・痔ろうなどを伴う炎症性疾患です。
10〜20代で痔ろうを繰り返したり、原因不明のくり返す腹痛、血便、下痢、体重減少などのある方はクローン病が疑われます。
クローン病の症状
クローン病を発症すると、以下のような症状が現れます。
- 肛門痛(痔ろう)
- くり返す腹痛
- 下痢
- 血便
- 体重減少
など
クローン病の特徴
年齢比による発症リスク
発症年齢
10歳代~20歳代の若年者に好発します。
ピーク
男性:20~24歳 女性:15~19歳
男女比
男女比は2:1 男性の方に多くみられます。
発症の原因
クローン病は遺伝病ではありません
クローン病は遺伝病ではありません。しかし、人種や地域によって発症する頻度が異なり、また家系内発症もみとめられることから、遺伝的な因子の関与が考えられています。
クローン病を引き起こす可能性の高い遺伝子がいくつか報告されていますが、現在のところ、特定の遺伝子で発症するのではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症していると考えられています。
治療
定期的な検査で病気を
把握していくことが必要です
ほとんどの患者様が、一生のうちに一度は、外科手術が必要になると言われてきました。近年の治療の進歩により、将来は、手術をする患者様が減ってくる可能性があります。
治療を継続しつつ、定期的な画像検査などで病気の状態を把握することはきわめて大切です。
近年では、様々な生物学的製剤が使用されるようになり、これらを駆使することで症状悪化を防いでいきます。
潰瘍性大腸炎、クローン病の検査
症状にあわせた治療を迅速に
開始するため、検査を行います。
内視鏡検査
まずは大腸カメラや胃カメラで大腸や胃の炎症の状態を把握します。
血液検査
血液検査でも炎症や栄養状態を把握します。
経過観察のための検査
治療通院中、何度も内視鏡検査を行うのは患者様の負担になります。しかし自覚症状だけでは十分状態を把握できないため、潰瘍性大腸炎では便中カルプロテクチン、クローン病ではロイシンリッチα2-グリコプロテインを検査し、その時その時の状態の把握をして、適切な治療を行います。
便中カルプロテクチン検査とは?
潰瘍性大腸炎やクローン病を発症している場合に検出される、特定のタンパク質を測定する検査です。来院の当日に採便していただき持参していただければ、その場で測定し、10分程で結果をお伝えすることができます。(便をお持ちいただく際は専用の容器が必要です。事前の診察の際に容器をお受け取りいただき、当日はそちらの容器に入れてご持参ください。)
この検査により、迅速な初期診断を可能にするとともに、その後の投薬治療でも、症状の改善・進行具合、薬の効き具合を数値化して判断することができ、症状にあわせたより適切な治療を行うことができます。
潰瘍性大腸炎、クローン病の治療
継続的な通院とお薬で治療を
行います
潰瘍性大腸炎とクローン病は、どちらも原因不明の難病となり、完治することがありません。
寛解・増悪を繰り返すため、継続的な通院と検査・治療が必要です。
使用するお薬について
症状に応じて適切なお薬を
使用します
当院では、潰瘍性大腸炎やクローン病に有効な製薬を各種取り揃えております。
レミケード(インフリキシマブ)、ヒュミラ、ステラーラ、シンポニー、その他の生物学的製剤による治療も行っています。
また、より副作用の少ない顆粒球除去療法も行うことができます。
治療は、どちらの病気も、同じ様なお薬を使用します。
- 5ASA(5-アミノサリチル酸製剤)
ペンタサ、アサコール、リアルダなど、基本の薬剤です。
治療には最初にこれらの薬剤を使用します。内服剤、座薬、浣腸剤などがあります。
- ステロイド剤(プレドニンなど)
症状が悪化した場合に使用します。副作用が起こりやすいため、医師の指示をきちんと守って使用することが大切です。
内服剤、座薬、浣腸剤などがあります。
- 免疫調整薬(アザチオプリンなど)
ステロイドが効きにくい方、ステロイドをやめると悪化してしまう方などに使用します。
以前は、強度の白血球減少などの副作用があり、かなり慎重に使用していましたが、NUDT15遺伝子をあらかじめ検査することで、安全に使用できるようになりました。
- 生物学的製剤(バイオ製剤)
潰瘍性大腸炎では、5ASA、ステロイド剤、免疫調節薬の投薬をしても症状が落ち着かない場合に使用します。また、クローン病では、初期治療時から使用する場合があります。
非常に高価な薬で、定期的に使用する必要があるため、指定難病の医療費助成制度を申請していただいた上で使用します。
- 経腸栄養療法(エレンタール)
主に、クローン病の治療に使用されます。1日の必要カロリーの一部を栄養剤として口から服用することで症状を抑え、病状の進行を軽減することが出来ます。
- 顆粒球除去療法
顆粒球除去療法は血液の一部を体の外へ連続的に取り出し、白血球の中の特に顆粒球・単球を選択的に除去する医療機器に通し、再び血液を体内に戻す治療方法です。
お薬で改善されなかった場合
上記のような薬剤を使っても改善しない場合、潰瘍性大腸炎では大腸全摘術、クローン病では小腸部分切除術や小腸狭窄形成術、シートン手術などが行われることがあります。
特に、クローン病は5年で33.3%、10年で70.8%の患者様に手術が必要とされており、手術回避のためには、よりきちんとした継続治療が必要となります。